ジャンル
ホラー【パンク・コメディ・ゾンビ・ホラー】
スタッフ
監督、脚本、SFX総指揮:ダン・オバノン 製作総指揮:ジョン・ダリー、デレク・ギブソン 制作:トム・フォックス、グラハム・ヘンダーソン プロダクション・デザイナー:ウィリアム・スタウト
キャスト
バート:クルー・ギャラガー フランク:ジェームズ・カレン アーニー:ドン・カルファ フレディ:トム・マシューズ
監督の当作品の前後作
【前作】なし。これが初監督作品。【次作】ヘルハザード<禁断の黙示録>The Resurrected (1991)
1985年の主なホラー映画
フェノミナ、死霊のえじき、デモンズ、死霊のしたたり、新・13日金曜日、スペースバンパイア、霊幻道士、エルム街の悪夢2、ザ・スタッフ、キャッツ・アイ
ホラー以外の1985年の主な映画
バック・トゥ・ザ・フューチャー、グーニーズ、コマンドー、マッドマックス/サンダードーム、乱、ロッキー4、ポリス・ストーリー、ランボー/怒りの脱出、銀河鉄道の夜、ビルマの竪琴、二代目はクリスチャン、タンポポ、カラーパープル、セント・エルモス・ファイアーなど
超簡潔あらすじ(ネタバレなし)
医療倉庫に配送ミスで届いたドラム缶の中にはゾンビが入っており、長年の間、倉庫の地下室に置かれたままになっていた。その倉庫で働く社員のフランクがバイトのフレディに缶のゾンビを見せに地下室に行くと、つい缶を叩いてしまう。するとガスが突如噴き出し、ふたりはそれを吸い込んで意識を失ってしまう。しばらくして気付くとガスに反応した倉庫内の標本や解剖用の死体などが次々に動き出す。呼ばれた社長のバートも加勢し、襲って来た1体のゾンビの後頭部につるはしを叩き込むもまだ動き続けている。仕方なくバラバラに解体して近所の火葬場で焼却するが、その煙が染み込んだ大雨が降り注ぎ、墓地に埋められていた無数の死体が一斉に動き出し一帯は修羅場と化す。
映画の背景、感想や考察など (部分的なネタバレあるかも)
すでに鑑賞した方がお読みになるか、未鑑賞の方はこれを読んで興味を持って観るきっかけになると嬉しいですが、完全に情報を入れたくない方は(そもそもこのサイトに来てないでしょうが)ご注意ください。当ブログはストーリーを全て説明することは避けているので、未鑑賞の方が感想や考察を読んでも全てのストーリーやネタが理解されるほどではないとは思います。
当時シュワちゃんの「コマンドー」と同時上映という豪華さ
このコメディ・ホラーはリアルタイムで実家の最寄り駅からふたつ先の駅の映画館まで観に行きましたよ。兄貴と当時ウチにホームステイしていたティム(20代?)というアメリカ人の3人で行きました。余談ですが、ティムは図々しく我が家に彼女を連れ込んだり、記憶の中では何かと好き勝手やってた印象で、数年後に母親が我が兄弟と「年齢が近い女の子にすれば良かった」と残念そうに言ってたのを覚えてます。※それって今思えばホームステイなん?って感じで謎です。ちなみに私は当時小学生でした。それ以外のティムの記憶はほぼありません。このバタリアンの記事を書いていてこれは映画館に行ったな、って思ったら急にその記憶が蘇りました。
さて、話は逸れましたが、当時は同時上映は当たり前で、むしろ1本だけだともったいなくて2本ないと観に行かないって感じでした(当時の記憶の中では)。席も自由で1日中ずっと座り続けてもOK。だから眠ってるおじさんが結構いました。ちなみにこのときは人気作のせいか(コマンドーが人気なのかバタリアンなのか、どちらもなのかは不明ですが)立ち見になってました。指定席じゃないから満席でも客を入れて立ち見になるって当時は普通でした。
「コマンドー」についても語りたいですが、ホラー映画ブログだし長くなるのでまたの機会に。
低予算が名作を生む!
前回ピックアップした「死霊のはらわた」もそうですが、今回も低予算と短期間で制作された映画で、スタッフ一同であれこれ試行錯誤して作ったそうです。CGは高額だから使えなかったとか。すでに「トリビアネタ」にもなりますが、作中の序盤にガスが漏れて倉庫の標本の蝶が動き出すシーンがありますが、あれは図鑑の蝶を切り取ってピンで留めてダンボールで扇いで生きてるように揺らしてたらしいです。オバノン曰く「あのシーンをCGにしただけで今作1本分になる」と語ってます。「ジョーズ」などもそうですが、CGではなく実際にそこで動いているというリアリティと説得力は凄いものがありますし、低予算だからこそのアイディアや特殊メイクはむしろCGよりも芸術的で印象深く心に残ります。
あのドラム缶に入っていたゾンビ「タールマン」も細身のパントマイマーを起用してました。細くないと露わになった骨を見せられないから。そしてパントマイマーならではのタールマンを表現したあの異様な動きはCGではむしろ出来ないと思います。劇場で観てほんとあの場面は怖かったし気持ち悪かったです。タールマンはホラーキャラ界の殿堂入りです。
スターゾンビ
オバノンは登場するゾンビを俳優のように考えてたようです。映画製作の初期段階でキャラクターデザインをするウィリアム・スタウトの起用を決め、ゾンビの風貌やキャラクター性にこだわったそうです。それが序盤に登場する黄色ボディで後頭部につるはしを打たれる「ハーゲンタフ」や「タールマン」そして上半身だけのおばさんゾンビ「オバンバ」などです。この「オバンバ」+「バタリアン」によって「オバタリアン」なる単語が誕生し、図々しいおばさんに対して主に使われるようになり一種の社会現象化しました。
単に似たようなゾンビがたくさん出るのではなく、こうした個性的なキャラクターをクリエイトしたことによってバタリアンは子供から大人まで人気を得るようになり、今やレジェンドホラーの1作として愛され続けているのだと思います。
ジョージ・A・ロメロとは別ジャンル?
何と言ってもゾンビと言えばロメロ。動きや風貌、頭を撃つと死ぬ、などのゾンビの概念を作り出したのはロメロですが、彼の初監督作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の原作者、ジョン・A・ルッソは今作後にロメロとは袂を分かち、実質的な続編「The Return of the Living Dead」を構想。当初「バタリアン」はトビー・フーパーがやるはずだったようですが、予算などの問題から脚本として参加予定のオバノンが監督に推薦されたとのこと。
オバノンは当初、この映画の監督を受けるのは嫌だったようで、ゾンビと言えばやはりロメロ。彼の庭を荒らすようなことはしたくないという思いだったそうです。バタリアンの話が出た時点ですでにロメロは「ゾンビ(Dawn of the Dead)」を世に出して世界的に名声を得ると共にゾンビ像も確固たるものにしていました。
そこでオバノンはロメロがシリアス路線だとすると自分はコメディ路線にしようと思ったとか。この話を聞くとまるでブルース・リーのあとのジャッキー・チェンのようです。ジャッキーもデビュー当初はリーのようなシリアス路線でやってましたが二番煎じでパッとせず自分の性格に合ってるコミカル路線に舵を切って大成功しました。
ゾンビが走る!喋る!待ち伏せる!
ゾンビと言えば動きがゆっくり。「あんなの逃げるの簡単だよ!」って感じで、ロメロの「ゾンビ(Dawn of the Dead)」も怖いのは人間で、むしろゾンビは可哀そうな感じでしたが、今作のゾンビは衝撃的でした。ゾンビ(すでに腐ってるはず)なのにダッシュで追いかけて来ます!2002年のホラー映画「28日後…」でも走るゾンビは印象的でしたが、「バタリアン」のゾンビは何と喋ることも可能!救急車やパトカーを襲い、その無線を使ってさらに応援を要請します。なぜならもっと脳ミソが欲しいからです!
大勢でただ突っ立っていては怪しいので、草むらに潜んで追加の獲物が到着するのを待ち伏せるという優れた思考能力を発揮してます。頭がキレるゾンビなのでこれは非常に厄介です。
最高のエンターテインメント・ホラー
前回ピックアップした「死霊のはらわた」もそうですがこれも最高のエンターテインメント性があるホラー映画です。アナログなスタイルでキャストやスタッフが頑張って低予算ながら観客を喜ばせる為に最大限の努力をしています。そこに気概や喜びを感じて取り組んでるという想いや空気感を感じます。それは観ていてこちらも幸せになります。
80年代の素晴らしい映画たち
曲や服装も80年代を感じさせて懐かしさもあります。個人的にとても映画を観に行っていた年代だし、名作揃いで毎月何回も劇場に行かないといけないほど観たいものばかり。この記事の上記にある1985年制作の映画タイトルを見ても凄まじい豪華さがおわかり頂けるかと思います。ホラー映画ではジョージ・A・ロメロの「死霊のえじき」がありますね! 80年代はこのクラスの映画がほぼ毎年のようにゾロゾロ制作されてました。私のマイベストで大半がこの時代の映画です。ほとんどがCGなどが使われておりません。CGを否定してるわけではありませんよ!CGがないからイメージに近づける為にアナログながらアイディアを振り絞って努力してる姿勢が伝わってきて、それがとても温かく感じる瞬間があって私を良い気持ちにさせてくれるのです。
お気に入りのシーン
「死霊のはらわた」に続いて全体的に好きなシーンばかりですが抜粋すると。
やはりハーゲンタフ
タンクからガスが噴出して倉庫に保管していた人間の死体「ハーゲンタフ」が冷凍室から飛び出して来るシーン。結果的にこいつを切断して焼却したことで墓地のゾンビが次々と復活して大惨事になりました。
印象的なサウンドと共に降り注ぐ雨
上記の「ハーゲンタフ」を焼却するシーンで80年代感が満載の勢いあるサウンドが流れます。これまでのはプロローグで、ここからいよいよ本格的にやばいことが始まるという予感を感じさせるシーンです。焼却した煙に反応して大雨が降り、倉庫の近くの墓地に降り注ぎます。ここからゾンビ・エンターテインメントの幕開けとなります。
伝説級!タールマン
すでに触れましたがやはり抜群の印象を与えたのは「タールマン」でしょう。タンクから出てきたときになぜフランクとフレディを襲わなかったのか?それはふたりがすでにゾンビ化していたからでしょう。フレディの恋人のティナが倉庫にやって来て彼を探しに地下に降りるとこの化け物が現れます。このときタールマンを見たティナの衝撃を表現したのがヒッチコックの「ドリーショット(ドリーズーム、めまいショットなどとも呼ばれる)」というカメラワークです。ヒッチコックも私は大好きでDVDボックスを持ってますが、映画「めまい」はヒッチコックの中でも最も好きな作品です。そこで使われたショットがドリーショットでカメラをズームアウトしながら被写体に寄っていく手法で、独特の効果が得られます。
ティナはロッカーに入って助かりましたが、助けに来た仲間のひとりが替わりにタールマンのえじきになってしまいました。
追加で救急隊と警官をお願いします。
飢えが収まらないゾンビたちは無線を使って救急車と警官を追加オーダーするという高度なテクを使います。「もっと応援くれ~」このシーンはとても好きです。
オバンバも選ばないと
ゾンビが建物内に侵入して来ないように窓際で応戦してるところにフレディとティナの仲間のひとりに喰らいついて来たのがオバンバです。彼女を捕獲して台に載せてロープで縛り、話を聞くというシーンがシュールで実にキモい。この映画の代表的なシーンのひとつと言っていいでしょう。
良い味出してる!アーニーことドン・カルファ
医療倉庫の社長バートの友人で墓地近くの葬儀場で仕事をしていたアーニーに例のハーゲンタフの死体の焼却を依頼したわけですが、このアーニー役のドン・カルファがとても良い味を出してます。ギョロッとした目と動きがどこかユニークで存在自体が笑えます。何でもないところで足を骨折してしまい葬儀場にティナと共に残ることになります。
トリビア&小ネタ
1. 映画序盤、フレディの友人たちが墓地を訪れるところで道端に座っていたホームレスの男性はデザイナーのウィリアム・スタウト。
2. フレディ役のトムは監督から「今風の若者の役」と言われ即日、耳にピアスを開けてきた。
3. フランクの役はダン・オバノンがやる予定だった。
4. 映画の設定はケンタッキー州ルイビルだが実際のロケ地はロサンゼルスで行われた。映画序盤、若者たちがフレディの仕事場まで車で向かってるシーンはイーストLA。医療倉庫の外観はLAのダウンタウンで屋内は別の場所、バーバンクにある倉庫で撮影。墓地は実際にはなく、それっぽく見えるように壁を作って扉を付けた。実際にはその先には線路が通ってた模様。墓地はセット。別の場所なので墓地と外を行き来するときは連続ではなくカットが変わっている。
5. 倉庫内にあるハーゲンタフが保存されていた冷凍室は実際には冷えていない。霜に見えるのは白いスプレーを掛けている。実際、作中で庫内にいるふたりの息は白くなっていない。
6. 倉庫のデスクでフランクとフレディが会話するシーンでフレディの後ろの壁に貼ってある目の検査表には「バート(社長)は人使いが粗い」と書かれている。ちなみに当時、監督のダン・オバノンはバート役のクルー・ギャラガーより18歳も年下で、よくギャラガーに鉄パイプで叩かれていたとのこと。それが嫌で痛くない作り物を発注したそうだ。それがこの検査表の言葉に表れていたのだろうか?
配役の段階でオバノンはバート役を誰にするか最後まで悩んだそう。クルー・ギャラガーは当時「テキサスの男のイメージ」が強いから合わないと思っていたとか。
ダン・オバノンは2009年63歳で死去。クルー・ギャラガーは2022年93歳で死去している。
7. 墓地でフレディの仲間のひとり、トラッシュが全裸になって踊るシーンで、股間にはプラスチックのカップを被せていたようだ。「テロっとして不自然。角度的にもあまり映らないから付けなくてもよかった」と言ってますが、付けなかったら普通に丸見えだったと思います…。
8. ドン・カルファは劇中では白髪で色白、髭がないが、実際は黒髪で肌は浅黒く、髭も生やしていた。
9. 台に載せたオバンバはデザイナーのスタウトなどのスタッフが台の後ろから動かしていた。
10. 連絡を受けてパトカーで駆け付けた警察官の2人は本物。
11. ダン・オバノンは当初この作品が完成しても好きではなかったようだが、後年「誇りに思う」と語っている。「スピルバーグなら希望すれば何でも揃っただろうが、我々は低予算でなかなか希望が通らない」「全く期待されていない映画だった」など自虐することを多々語っている。
あとがき
リアルタイムで劇場に観に行ったこともあってお気に入りのホラー映画です。ほぼコメディですけど。でもしっかりと緊張感や程よい怖さもあるところは香港映画「霊幻道士」にも似たところを感じます。仲間同士でわちゃわちゃするところなんか。そしてゾンビ化しちゃったり。もちろん「死霊のはらわた」もコメディ要素強いから同じ匂いがしてどちらも大好物な映画です。
シリアスなホラーが観たい人には今作はちょっと違いますが、みんなで笑いながら観れる上質なエンターテインメント・コメディ・ホラーなのでぜひ観てない方は一度観てみてはいかがでしょうか!
以上、T-Spicyでした。